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横井也有の俳文選
270「与脇息文」

☆「与脇息文」(きょうそくをあたえるふみ)

 横井也有著『後鏡裏梅』に掲載されている俳文で、安永2年(1773年)の数え年72歳頃の作と考えられています。この俳文は、也有が使用していた脇息を尾張国春日井郡内津村に住む長谷川三止が、譲り受けたいと申し出たのに対して、その事情を書き記して、三止に与えたものだと考えられています。

☆「与脇息文」(きょうそくをあたえるふみ) (全文) 

<原文>

 机には狭し、脇息[1]には長過たり。是は我庵の長物[2]といはむ。用る事もなく側に捨置たるを、世に葉たる物はなかりけり、三止[3]なるおのこ是を得させよといふ。もとよりおしまづき[4]のおしまずして譲り与ふ。小庵の棚を狭め煤払の厄介なりしを、我は内津山[5]の鬼にに瘤取られたる[6]心地ぞする。其事を書て添よといふ。筆に任せてかくのごとし。

昭和58年3月30日 名古屋市教育委員会発行『名古屋叢書三篇 第十七巻・第十八巻 横井也有全集 中』より

(現代語訳)  与脇息文

 机には狭く、ひじ掛けには長過ぎている。これは私の庵の無駄なものといえよう。用いることもなく、脇にすておいてあったものを、世の中には役に立たない物はないと、長谷川三止という人がこれを与えてくださいと言う。元々、ひじ掛けとして惜しむものでもないので譲り与えた。小さな庵を棚を狭めていたし、煤払いの際の厄介物であったので、私は、内津山に住む長谷川三止に、山中で鬼に瘤を取られたことに例えるような気持となったことだ。その事を書いて、添文にしてほしいと言うので、筆に任せて書いたものだ。

【注釈】

[1]脇息:きょうそく=すわった時にひじを掛け、からだをもたせかけて休息するために使う道具。ひじかけ。
[2]長物:ちょうぶつ=長すぎて役に立たないもの。転じて、むだなもの。よけいなもの。
[3]三止:さんし=尾張国春日井郡内津村の医師・薬種商で、横井也有に私淑する俳人でもある長谷川三止のこと。
[4]おしまづき=脇息のこと。
[5]内津山:うつつやま=尾張国春日井郡内津村のこと。
[6]瘤取られたる:こぶとられたる=『宇治拾遺物語』の「鬼に瘤取らるる事」を踏まえ、邪魔物を失くして喜んだ話の例えとしている。

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