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内津にての巻 五巻

☆内津にての巻 五巻(うつつにてのまき ごかん)

 江戸時代の俳人横井也有が『内津草』の旅をした時に、内津村滞在中に巻かれたものす。也有に私淑し、尾張国春日井郡内津村(現在の愛知県春日井市内津町)に住んでいた俳人長谷川善正(号は三止)は、かねてから内津に松尾芭蕉の句碑を建立したいと考え、その揮毫を也有に依頼し、「山路来てなにやらゆかしすみれ草」と書いてもらいます。その碑が建立できたので、1773年(安永2)に、三止はそれを見てもらうため、也有を内津村の自宅に招いたのでした。也有は同年8月18日(新暦10月4日)に、門人の石原文樵、也陪と共に、内津村まで旅をします。8月27日(新暦10月13日)まで10日間も三止宅に滞在して、寺社(妙見宮、見性寺、虎渓山永保寺)や試夕亭を訪ねたり、5回もの句会を開いたりして遊びました。その内津滞在中の8月18日(新暦10月4日)~8月26日(新暦10月12日)までの間に巻かれたもので、也有、三止、文樵、也陪によって行われています。

「夢も見じ」
二十八番
「探題四句」 「漱ぐ」
短歌行
「月もるや」
二十八番
「花蓼の」
短歌行
「人訪へな」
の短歌行

☆「夢も見じ」二十八番テキスト

  前書略
夢も見じ鹿聞までは肱枕     也有
 月も居待を過て遅き夜      三止
こゝろなき竿稲舟に指捨て     也陪
 さてもわらぢに道はこねたり   文樵
元服の顔に商人見そこなひ     三止
 朝日に簾掛る西側        也有
お談義は今始りの鉦の声      文樵
 命の杖を取る灸と箸       也陪
暖な障子に蠅の小六月       也有
 また造作の工夫して見る     三止
楽色に兀た天窓も茶に染り     也陪
 おれがちなんでからも十年    文樵
取分て花のくもりのひがし山    三止
 見るうちにへる夕暮の風巾    也有
首ばかり出して汐干の懸り舟    文樵
 火つきのわるひたばこでは有る  也陪
霖の窓に茨の匂ふ也        也有
 茶漬恋しき小野の手習      三止
続ひても離ればなれに牛の群    也陪
 流れて来たが卒都婆一本     文樵
笠の端に月白々と明残り      三止
 爰は佐野とて雪の錦畑      也有
鉢植をならべて置も梅もどき    文樵
 窓の明りを塞ぐ鏡台       也陪
楽屋見て恋はさめたる文使     也有
 降出す空の言語道断       三止
花慕ふ鳥の竹にも囀りて      也陪
 人来来と庭の長閑さ       文樵

☆「探題四句」テキスト

  探 題
先こぼす染ぬ松から露しぐれ    也有
蜻蛉やとまらぬ水を離れかね    也陪
末枯や祭の跡の起し畑       文樵
落葉や座禅の窓の悟り時      三止

☆「漱ぐ」短歌行テキスト

  前書略
漱ぐ石もあたりにきりぎりす   也有
 渓の枕にまつ月の影       三止
われもこう広げる家の工夫して   文樵
 貯ふて能いは書たもの也     也陪
兀山を何せふとて境論       三止
 もふ法印も齢は六十       也有
ふりやめど道はかどらぬ雪景色   也陪
 爰は通れぬ垣に茶俵       文樵
鶏は何を啼たか夜も明ず      也有
 乳々にせわしい子は二人迄    三止
雨空に花見戻りの迎ひ駕      文樵
 近ふ聞える壬生の狂言      也陪
日の永いほどは仕事の出来かねて  三止
 風呂が明たらまづ座頭殿     也有
錠口は武家の掟のむつかしき    也陪
 皆付札の櫛や笄         文樵
灯は消て風の音の更わたり     也有
 やくそくをした恋に留られ    三止
雨にござかぶる姿の恥かしき    文樵
 舫の船に棹を奪合        也陪
起たのと寝たのと樽の数有て    三止
 問るゝ伯父に嘘もつかれず    也有
いろいろの沙汰も浮世の月と花   也陪
 北を詠る鴈の旅まへ       文樵

☆「月もるや」二十八番テキスト

月もるや柴の編戸の常ならず   三止
 ひと夜うつゝに見ん秋の夢    也有
谷水の音を碪に打交て       文樵
 請取場所は掃しまひけり     也陪
笑はせてくれるな腹が減て居る   也有
 追ひこむ牛の庭に小便      三止
夫ほどに降とも見へず積る雪    也陪
 勿躰付て医者の遅さよ      文樵
雇人を起せば寝言いふて居る    三止
 昼揚ねばならぬ雨もり      也有
村で取り持ぬ宗旨の寺荒て     文樵
 読にくひのもつて唐様      也陪
飯鮓にそへて花見の樽一つ     也有
 しぐれの亭の軒もかげろふ    三止
山間にぬるむ流れの美しき     也陪
 賤が仕事の襷がけ也       文樵
かい餅に済す逮夜の講仲ま     三止
 売であろふと蔵を見て置     也有
笋の壁つきぬひて横にはへ     文樵
 長い名代をとつた雪隠      也陪
一折も出来ぬ連歌に月は山     也有
 待せ待せて今雁の声       三止
恋風の身にしみ渡る簾ごし     也陪
 肌恥樫木油手の袖        文樵
お屋敷の使に嘘はつき次第     三止
 虎竹に昇る四つの日の影     也有
留られるのを幸に花の本      文樵
 実一時を惜しむ千金       也陪

☆「花蓼の」短歌行テキスト

師翁に随ひ奉りて今宵孤月
  楼に登る
花蓼の酢に働くや後の月     三止
 かげ盃に落て飛ぶ鴈       也有
踊から習ひし諷をはり上て     文樵
 低ひ庇の並ぶ外町        三止
此鍔に弐百出したは見そこなひ   也有
 舅の気には入らぬ聟也      文樵
落付てけふも又寝る雪ついり    参止
 阿武隈河に水鳥の声       也有
ちらちらと見分難なき灯の光り   文樵
 つられた恋に往つもどりつ    三止
年四十越してあ房の花が咲     也有
 綿ぬき前に質の洗濯       文樵
春の雨伊勢が隣も寂かへる     三止
 顔久しうて見たる肥とり     也有
藁苞の小鮒を猫の嗅で居る     文樵
 氷交りの水遣ふ也        三止
逗留も今は厭れし色見へて     也有
 愚痴に成られた長浜の伯母    文樵
胞桶を埋てしまへば明の月     三止
 犬の床にもきりぎりす啼     也有
ことし米貰ふて渡る鉢坊主     文樵
 急な手紙をまづ頼む也      三止
十日前から咲続華盛り       也有
 五町四方を霞む外屋敷      文樵

☆「人訪へな」の短歌行テキスト

  求韻短歌行
人訪へな行燈ともさん秋の暮   三止
 月の後降雨の漏り桶○
当ほどこにことしはとれる綿もなし 也有
 粥も飼はずに牛つなぎ捨○    三止
寒ひ手に落してわらす余所の皿   文樵
 煤掃しまふ窓に北風○      也有
枝せまふ啼に集る客ども      三止
 大工の腰に槌とさしがね○    文樵
およづゐて橡から覗く将棋好    也有
 肴は皆に成て酒さへ○      三止
黄昏に幕を畳めば花のちり     文樵
 三日霞むでもふあすは雨○    也有
藪入の伊達も借り着にかこち顔   三止
 城下の門は下りて引駕籠△    文樵
浜手からすゞしい風の吹廻し    也有
 喧𠵅の果のどふ成たとも△    三止
此ぬしは誰であらふとたばこ入   文樵
 傍輩中に恋のあて言△      也有
咡も風呂場に照らす月の影     三止
 袷も邪魔に洗濯の竿△      文樵
秋寂し鞠流行かす門徒寺      也有
 痞々に顔青きいろ△       三止
冴返りながらも花は咲初      也有
 山の笑ひにも里も万代△     文樵

昭和58年3月30日 名古屋市教育委員会発行『名古屋叢書三篇 第十七巻・第十八巻 横井也有全集 下(1)』より

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